昭和47年04月03日 衆議院 予算委員会

[196]
日本共産党 松本善明
この予算委員会で、私の質疑が終わると、これから討論や採決ということになります。この国会で、私どもは論じられ方が非常に足らない問題が一つあると思う。その問題について総理大臣に伺いたいと思います。

それは、連合赤軍問題があれだけ世間の耳を騒がせ、そしてこれは学園が温床になっておる、そういうことがありますけれども、その対策、こういうことをなくすということの対策が論じられていませんし、それからこの問題についての責任、これも政府の一つの大きな責任だというふうに思うわけですけれども、この問題についての議論が足りませんので、私はあえてこの問題を先にやりまして、沖繩問題も多少まだ論じたい点がありますけれども、あとからあるいはお聞きするかもしれません。まずこの問題をお聞きしたいと思います。

いま、大学でもこの暴力集団の根拠地になっておる大学、学園があります。その中で、たくさんの被害者が生まれております。非常にひどいのは、このテロの中で瀕死の重傷を受けて勉学の機会を奪われただけでなくて、2年たっても、いまも歩行が困難で、闘病生活を続けているという学生もあれば、そういう暴力行動に抗議をして焼身自殺をするという学生もある、こういう状態であります。

私たちの党が調査をいたしましたところによりますと、この暴力学生集団を批判をし、暴力行為に反対をするまじめな一般学生が、長期にわたって構内に入れないとか、あるいは公然と自主的な活動ができないで、授業さえ受けられない状態のところが早稲田、法政、同志社などの3大学21学部あります。また、大学構内で、ビラ配りなどの公然とした自主的な活動が日常的に困難か、トロツキストの暴力行為に反対する活動的な中心メンバーがテロ、リンチの危険にさらされているところが14大学37学部あります。状況によって学生大会や学生集会が、トロツキスト暴力学生集団に襲撃されるところが15大学17学部という状況であります。こういう状態、学生が登校をすることもできないというような状態のところがあるわけなんです。そういう状態について、どういうふうに政府は把握をしておるか、お聞きしたいと思います。

[197]
文部大臣 高見三郎
私からお答え申し上げます。

御質問のように、相当数の大学が暴力学生によって占拠せられておるということは事実であります。ただ私は、民主主義社会におきましては、理由のいかんを問わず、暴力は絶対に容認せらるるべきものではない、ことに学問の府でありますところの大学においてこのことが強調されなければならないと存じておりますが、現在の大学において、一部学生等の違法行動によりまして正常な運営が妨げられておることはまことに遺憾に存じております。

ただ問題は、学園内の紛争の様相を見ておりますと、政治的なスローガンを掲げまして、セクト間の対立をあおるような行動を関係者が繰り返しております限りは大学の静ひつを維持することはできないと思うのであります。御指摘になりました早稲田にいたしましても法政にいたしましても、自治会の指導権をめぐっての争いが学園紛争の種になっておるということは、少なくとも学問の府にある学生にあるまじき姿であると同時に、またこれをあおるがごとき教育者の存在は容認することができないことである、私はかように考えておるものであります。



[229]
日本共産党 松本善明
総理大臣にもう一つ、私は早稲田の例をあげて伺いたいと思います。

早稲田では、こういう暴力と登校できない人をなくす会というのが、早稲田大学第二文学部にできておるのです。で、これは早稲田の第二文学部では、暴力集団につけねらわれて登校できない学生がいま26名います。そして、こうして長期に登校できませんで、結局授業料を支払えない、授業を全く受けられませんから、そうすると末席にある、問題はどうしても解決をしない、何年もかかる、こういうことで退学になった学生が13人もいます。

これは革マルの暴力集団ですね、これが支配をしておる。暴力行為の件数は、もう連合赤軍のリンチ殺人事件に近い状態、裸にしてチェーンでなぐるとか、けるとか、そういうのが病院にかつぎ込まれるというようなことがもう再々あるわけです。

こういう状態でありますと、学校はもう、憲法でいう教育を受ける権利は言うまでもなく、学問の自由もないし、思想、信条の自由もないし、言論の自由もない、生命、身体の自由さえないという状態です。こういうままの大学というのは、私は、教育基本法だとか学校教育法の趣旨からは全く考えられない事態、趣旨とは根本的に違った事態ではないかというふうに思いますが、総理大臣、いかがお考えですか。

[230]
文部大臣 高見三郎
早稲田大学におきまして三派系と民青系とほぼ同じ数の学生集団があり、互いに主導権を争って、これは法政大学の場合も同じでありますが、確かにそういう暴力行為が行なわれておる。しかし、大学当局は、この問題につきましては非常に真剣に取り組んでおります。警察とも緊密な連絡をとっております。学生にして勇気があれば、必ず大学構内には入れるという状態を大学は保障をいたしております。

[231]
内閣総理大臣 佐藤榮作
どうも、ただいまのようなお話が次々に出ている、東大あるいは早稲田、まだその他の学校にもそういう例があると思います。こういうのは、やはり民主主義の時代ですから、みずから保護を求めるとか警察がきらいでも警察権を有効に使うということ、これは当然じゃないかと思うのですよ。私、そういう意味で積極的にみずからの権利を主張する、そういうことがあってほしい、そのために社会秩序を守るための協力、これにはいささかもやぶさかでない、こういうことを、迷惑を受けている学生諸君もやはり勇気を持ってそれだけのことをしていただきたいと、かように思います。

[232]
日本共産党 松本善明
文部大臣は、そういうことがないというようなことを言っておるけれども、現にそういう学生がいるんです。そして総理大臣は、それは警察に言えばいいだろうというふうに言われるのですが、なかなかそんな簡単なものじゃないです。

早稲田大学二文の学生で1970年の10月6日に焼身自殺をした人がいます。これはその問題で焼身自殺しているのです。山村政明君という人、この人の遺書は、「死を目前にした私が最も切実に望むのは次のことである。革マルの暴力支配と、大学当局の冷淡な措置により、経済的困窮の中で留年、退学に追い込まれながらも苦闘を続けている学友たちに明るい光のさすことである。彼らが、暴力支配による身体、生命の危険、経済的な生活破産から免れ、学生としての正当な権利を回復することである。二文の学生、教職員の正当な戦いに理解と支援を与えてほしい。暴力を一掃し、よりよき学園を建設してほしい。」こう言っている。

それから、これは学生にとどまらず先生にまで及んでいる。教授が学校に入るについて、これは私、学生から直接聞いたんですけれども、教授がなぐられたり、教室に散らばっているビラを拾わせられたり、教授の中には、大学の中に入るのに決死の覚悟で入ることがある、神経のこまかい人だったらめしものどを通らないだろう、こういうことを言っている。しかし、こういう事態を教授として公にされるということはなかなか勇気の要ることです。これは公に出ているのは、私が知る範囲では、法政大学の湯川和夫氏がはっきり公にされております。しかし、なかなかこれを公にされない。あるいは文部大臣に対する報告はそういう表面的なもので、保障されているなんと言ったって文部大臣、自分で早稲田の第二文学部へ行って学生に聞いたらいい。そんなことを言ったら学生に何を言っているんですかと言われますよ。

私は総理大臣の言ったことがちょっと問題なので、山村君の話を出しました理由は、この人は警察に届けているのですよ。届けたんだけれども、何にもどうにもならない。それで最後自殺しているのですよ。山村君は、大隈講堂のところで数名の革マルに襲われて、病院に運ばれました。戸塚署に届けたところが、数日後に戸塚署の高橋という警察官から見舞い金として500円贈られた。内部のことを知らしてくれという電話があった。山村君はこれを拒否して金は返したということ。届け出をしても、警察の態度は犯人逮捕と処罰という方向にいかないのですよ。それで山村君はさらに屈することなく戦うわけです。戦うといっても、学校に入って授業を受けようとするわけです。また、学校へ入って授業を受けられない学生のためにやるわけです。いろいろ訴えていくわけですね。それでまた1969年に学生大会議長をやっているときになぐられた。12月には20数名の革マルに襲われてなぐる、けるの暴行を受ける。衣服を裂かれる。それからまたその同じ12月に革共同の政治局員なりに襲われて鉄パイプで頭をなぐられて入院をする、そして70年の10月についに焼身自殺に追い込まれるのです。こういう事態があるのですよ。

総理大臣、この話を聞いてどう思いますか。

[233]
内閣総理大臣 佐藤榮作
いわゆる三派のセクトの争い、これはなかなかわれわれが聞いている以上に激しいものだと、こういうことをただいまの説明でよくわかるのです。私はいま、保護を頼んだその際に、警察がただ情報を取るような形でその人と連絡をした、こういう話を聞いて、どうも警察としても態度が間違っている、かように思います。だがとにかくいまの若い諸君、ずいぶん苦しみがある、表面は何と申しましてもただいまの思想上の争い、それはなかなか激しいものがある、かように私は思います。われわれが想像した以上にそのセクトの争いはひどい、かように思います。

[234]
日本共産党 松本善明
総理大臣も文部大臣もセクトの争いということを盛んに言われ、民青ということばも使われました。この早稲田の先生が言っているのは、暴力反対というのは民青のことばだ、そういうことばを使うなと革マルに言われるというのです。そして、暴力をとにかくなくさなくゃいかんじゃないかと言ったら、この先生は、革マルから暴力を取ったら学校から追放することになる、そんなことはできない。――それは常識で考えられないやりとりが教授と学生との間でもやられているのですよ。

セクトの争いだったら間で暴力を使っていいか、暴力で学校を支配していいか、そういうことは私は絶対に認めることはできない。そういう態度を政府がいままでとってこない。いまここの論議であっても、私がまともにこういう事態が起こっているんだということを論じているにもかかわらず、セクトの問題があるから――初めは文部大臣も、東大の問題でも簡単にいかないでしょう。セクトの問題があるから、早稲田の二文の問題でも解決しない。私ども、そういうような暴力をなくすということが問題になっているにもかかわらず、あるいはほかのセクトの問題だとかあるいは民青の問題だとか、そういうことが出てきて問題をこんがらかされて、そして暴力がなくなるという方向にいかないというところを問題にしているのですよ。そこはもう明確に区別をして、学園から一切の暴力はなくなるというふうにすべきじゃありませんか。

[235]
文部大臣 高見三郎
ひとり学園だけの問題ではありませんが、学問の最高の府たる大学の構内が、暴力によって占拠せられるということを許すべきではないということだけは、はっきり申し上げておきます。これに対応する措置は講ずるつもりであります。

[236]
日本共産党 松本善明
その講じ方の問題でありますが、この早稲田二文で言えば殺人未遂で起訴をされた、保釈中と、こういうような者もごろごろいるのですよ。これは私は、学園の自治とか大学の自由の名のもとに公然と犯罪が――犯罪集団ですよ、殺人未遂なんて凶悪な犯罪集団ですよ。それに対する断固たる考え方、これはもう学生、学問の対象ではないですよ、教育の対象ではない。教育の対象とそれから犯罪集団ということを明確に区別をすることがまず第一歩ではないかと思うのです。そう思いませんか。

[237]
文部大臣 高見三郎
お話のとおりであります。ただ、御承知のように大学は、大学みずからの手でやることを待つ以外に方法がございません。もし文部大臣にそれをやれとおっしゃるのならば、厳重なる大学管理法をつくるということ以外に、ただいまの文部大臣はそれだけの権限を持っておらない。大学人の見識と勇気と英知を持ってこの問題に当たっていただきたいと念願をいたしておる次第であります。

[238]
委員長 瀬戸山三男
国家公安委員長の答弁を求めます。

[239]
国家公安委員会委員長・行政管理庁長官 中村寅太
お答えいたします。

学園内の暴力行為の実態は、きわめてこれは容易ならぬことであって、許されることではございません。しかしながら、現在の状態では、大学当局が自治的にあらゆる暴力行為等の起こらないように処置をするということが前提になっておりまして、大学の要請があれば、警察当局といたしましてはいつでも要請に応じて暴力行為を排除する、さらに要請がなくてもそういうことが起こりはしないかというような不安があるときには、警察当局としてはあらゆる万全の措置を講じておるという実情でございます。

[240]
日本共産党 松本善明
文部大臣に、私は先ほどの答弁をお聞きしまして、大学管理法とか文部大臣の権限をもっと強くしろというようなことをすぐ言われますけれども、私はそんなことを言っているのじゃないのです。いますぐできることをやったらいいんじゃないか、文部大臣としてそういうことは、犯罪の対象となるようなものは、これはもう学外に出すべきなんだ、教育の対象とすべきではないんだということをはっきり指導するだけでもたいへん変わるのですよ。そういう態度はとれませんか。

[241]
文部大臣 高見三郎
終始一貫その態度で臨んでおります。たとえば横浜国立大学のごときも、放校すべき者は放校し、除籍すべき者はそれぞれに除籍するというだけの措置をとらしておるわけであります。ただ大学は、教授会、評議会の議を経なければ除籍ができないというところに問題があるのであります。今日の制度自体の欠陥であると私は思うのでありますが、もし大学が、ほんとうに学問の最高の府として大学人が大学人の誇りを持っておるならば、こういう連中をそのまま大学に置いておくはずはないはずだと思う。それをやらないところに、私は、日本の大学というもののまことに悲しむべき現象があるということを御理解をいただきたいと思うのであります。